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海の中に沈む

海塚の企画・メモ・キャラ用ブログ

ベターホラーの出だし的な何か

メモ

最初は穏やかなごく普通の話でした。

 

 心地良い音を聴きながら手元に蝋燭を灯して珈琲と、あいつの要望に応えて紅茶の用意を整える。ピアノの音色。優しい音色。雨音と共に聴くと雰囲気が出て好きだ。いつまでも聴き続けていたい。この空気を壊したくない。ピアノを弾き終えたら、いつもより丁寧に紅茶を入れてやろう。

 淹れたばかりの珈琲を飲みながら、ちらと外に目を向ければ既に真っ暗だった。私有地である森の中でなければ、いくら上手いピアノの音だろうが何だろうが近所迷惑になっていた。こういう所はここに住んでいて良かったと思う。

 ふと、 音が途切れた。稀にある演出かと思ったが、数秒経っても音は鳴らない。鳴る気配すらない。雨音だけの空間で徐々に目立ち始める雨音と、何ひとつ物音のしない状況が不安を煽り謎の恐怖心がこみ上げる。ピアノの音色がない所為で、どうにも雨足が強まったように思えて仕方がない。こういうのは苦手なのだ。

「……おい?」

 声を掛ける。返事はない。何かあったのだろうか。恐怖と不安を押し留めながら、できるだけ落ち着くためにゆっくりと、どうしたのかとリビングを覗く。

 目の前にいたのは、黒い影。咄嗟に目を反らす。なんだ、こいつは。得体の知れない影が、じっとこちらを見つめている。

 一瞬上げそうになった悲鳴を飲み込んで、視界の端に影を捉えながら奴の背後に目を向ける。……誰もいない。なら簡単だ。これはただの冗談だ。

 冗談? 何を馬鹿な。あいつはこんな冗談、ましてやドッキリなどできる性格だったか? そもそも物音一つ立てずに、機材もなしに、どうやったらこんなことをできると言うんだ。俺がこの家に招いた時だって必要最低限のものしか手にしていなかったじゃないか。それに機械を使ったら音が聞こえるはずだろう。小型の機械だけでこんな手の込んだ真似ができるというのか。わかっている。

 だったら一体、これは何だ?

 目の前いるこれは、何だ?

 混乱している俺を置き去りに、影が動いた。こちらを覗きこもうとする気配が近づいてくる。影の動作はプレッシャーをかけるように異様にゆったりとしていて、どこか腹が立つ。それにまんまと掛かっている自分にも。

 駄目だ。見たら駄目だ。動かない。動けない。声も出せない。

 真っ黒い塊が眼前に広がるのとほぼ同時に、意識を失った。