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海の中に沈む

海塚の企画・メモ・キャラ用ブログ

彼の世界にある絵画

メモ

流れは考えたものの冒頭部分で行き詰まったお蔵入りネタ

 

 

 

 宇賀は絵を描くことが好きだった。自分の世界にのめり込み、自分だけのイメージを再現する。そしてそれを沢山の人に見てもらうこと。それが彼の夢だった。

 だが、それを理解してくれる人はいなかった。小学校に中学校、高校。今まで宇賀の周囲にいた者は皆同様に、口裏を合わせたかのように言うのだ。

「なんだこれ、気持ち悪い」

 と。

 気持ち悪いと言われるのは心外だった。彼にとって、これらの絵は自分の中の世界に確かに存在し、決して気持ち悪いものでも醜いものでもないからだ。宇賀の世界でそれは輝いていて、美しく、気高く、神秘的なもので。しかしそれを精一杯表現したものを彼らは一蹴して、気持ち悪いと言う。

 わかってもらえないのなら、もう。

 宇賀は一層絵にのめり込んだ。自分の中のソレを描くために。もっと美しくそれを表現するために。けれど理解されないのなら、誰にも理解されなくてもいい。自分だけの物なのだから。

そう思っていた。

 それに元々、絵を描くこと自体が好きだ。だから誰にも知られなくても、認められなくても、一人で絵を描いていた。自分のイメージを描いて、修正して、描いて、修正して。時には

「この絵、素敵ですね」

「……はい?」

 宇賀の口から間抜けな声が零れた。

 道の傍らで黙々と絵を描く彼の近くに、女の人が立っていた。少し短めの黒い髪、大きくぱっちりとしたどんぐり目。そして、シンプルだが色のついた可愛い服。

 第一印象は、幼い。

「他にも描かれていましたよね? 田舎道、って題名の絵とか」

「……ぼく、ですか?」

「はい」

 訳がわからなかった。

 こんな田舎道で話しかけてくる人なんていない。しかも、宇賀の目の前に現れた女性はこの絵が素敵だと言う。

「ええと……?」

「あっ、ごめんなさい! 私、尾市美幸っていいます。あなたの絵が好きなんです」

「…………」

 ハッとした表情でそんなことを言う尾市に、驚きで硬直する。あと戸惑いは素性が知れないからじゃないです。どう返答していいのかわからず、そんな言葉も紡げない。

 いま彼女はなんと言った? 自分の絵が、好き?

 世辞か? などと一瞬思ったものの、そんなことを言うためだけにわざわざ話しかけたりなど、するだろうか?

「え、あれ、人違い、でし、た……?」

「いいいいえ! そんなことありません! ぼくは宇賀一です。って、もう知ってますよね。そんなこと初めて言われたので、驚きで、つい」

「高校で見た時から、この人の絵は素敵だなぁって思っていたんです。やっと会えました!」

「高校ですか?」

「はい。同じ高校だったんですよ? なのに宇賀さん、いつも美術室に居ないし」

「あはは、すいません。家の方が捗るんで。自分だけの空間ですからね」

「そうだったんですかー……。って、絵を描いてるところだったんですよね。お邪魔してすみませんでした」

 申し訳無さそうに頭を下げてくる彼女に、宇賀のほうが申し訳なくなる。申し訳なくなるのだが、それ以前に現状を理解できない。高校だって? 次から次へ放たれる言葉に混乱しているのに対し、口は勝手に喋り続ける。

 気がつけば、次の木曜に会う約束をしていた。