海の中に沈む

海塚の企画・メモ・キャラ用ブログ

10月18日のワンライ

お題:虹色の鉱石

 

 石を拾った。それは虹色に輝いていて、透き通った色に、角度を変えれば別の表情ばかり見せるその石に、ぼくは一瞬で虜になった。
 家に持ち帰って、図鑑を開く。どこかにこれが載っていないだろうか。これは一体何なのだろう。ぼくは兎に角石の正体を知りたくて知りたくて、躍起になってページをめくった。しかし結局、その図鑑には載っていなかった。
 次の日ぼくは早速図書館に出向いた。家の図鑑だったか、有名な一部の物しか載っていなかったに違いないと、そう考えて。
 開館時間に間に合うように家を出て、開くまでずっと図書館前に立っていたぼくは他人の目には変に見えたかもしれない。でも、そうじゃないかもしれない。図書館が開くと同時に飛び込みたくなるのを我慢して、ぼくは早足でまっすぐ図鑑のコーナーへ向かった。普段は小説も何も読まないぼくがまっすぐ図鑑の場所へ向かえたのは、図書館前にマップがあったからだ。ありがたい。
 分厚い背表紙をひとつひとつ確認しながら、鉱石と書かれたタイトルを探す。その中から一番分厚いのを手にとって、読書コーナーへ移動した。読書コーナーで一ページずつ、素早く、けれど丁寧にめくる。あの石はどこにあるのか、その一心で、ひたすら。
 このときぼくは石を持っていたのだけれど、とても見せびらかす気にも、それどころか他人の目に触れさせるのが勿体無く思えて、行き帰りに握り締めるくらいしかしなかった。結局似たような記述がなかったから必要なかったものの、図鑑と見比べるために出すことだってしなかった。だってこれはぼくの宝物だと信じていたから。この日のぼくは途中まで読んで、借りて帰ってずっと読み漁った。完全に目を通し終えたのは一週間後だったかな。学校やなんかもあったから。
 一番分厚い図鑑にさえ載っていなくて、いよいよぼくは落ち込んだ。図鑑二冊を探しただけと言えばそれで終わりだが、子どもにとってあの小さなぎっしり詰まった文字を全部読むのは、言葉では言い表せないくらいの大冒険と言ってもいい。
 そんなわけで、ぼくは巾着に石を入れて持ち歩いたものの、意気消沈したまま日々を過ごした。そんなある日だ。
「そこのきみ、虹色の石を知らないだろうか?」
 声をかけてきたのはオレンジ色の瞳に真っ白な髪をした、背の高い男の人。あまりに印象的だったその人は突然話しかけてきて、虹色の石のことを言い出した。見せてないのに知ってるなんて絶対おかしい。だからぼくは首を振ったんだ。
「……しらない」
「そうか? 持っているならきみだと思ったのに」
「おじさんだれ」
「おじさんじゃなくて、おにーさん、な。誰だと思う?」
「……」
 こんな感じのやり取りで信用なんてできるわけがないだろう? だからぼくは無視して帰ろうとした。不審者と話すなん誰だってて嫌だろ。なのにヤツ、じゃなかった、彼は付いてきて好き勝手話していく。
「俺は虹色の鉱石を持っていてな」
「とても綺麗なんだ」
「透き通っていて、輝いていて」
「少しの光で変化が起きるから、見ていて飽きなくて」
「それでこの前ーー」
 絶えず喋る、鬱陶しくついてくる、ぼくの石を知っている。いろんな要因が合わさって、耐えきれずに一言言った。
「うるさいから、ついてこないで」
 すると彼は溜息を吐きながら「わかった、わかった。でも一つ。大切なものは宝箱にでも仕舞って隠しておけよ? 誰かに見つかって盗られちまう」なんて言って帰っていった。最後の一言だけ妙に納得してしまって、ぼくは帰ってから宝箱へ石を隠し、部屋の奥深くに仕舞い込んだ。
 すると次の日、虹色の鉱石の正体がわからないと嘆いていたのが嘘のように気にならなくなった。それから日に日に執着心が薄れて、最後は石の存在まですっかり忘れてしまった。おかしな話だろう?
 そして、つい最近のことだ。あの彼があの日のまま目の前に現れた。白髪にオレンジの目なんて、珍しくて記憶の底からすぐに引っ張り出すことができる。それと一緒に、鉱石のことも。突然のことでわけがわからなかったな。
 彼は石はどうした?と訊くから家の奥深く、と答えて、譲ってもらえないか? と訊くから別に構わない、と答えた。家から石を取ってきて箱ごと渡せば、彼は虹色の鉱石とよく似た石のストラップを渡してくれた。不思議な縁の御守りだ、って。特に断る理由もないから受け取って、今度は彼に尋ねてみた。
「あなた、誰ですか? 名前は、姿は?」
「なんだと思う?」
「……」
「そんなに黙るなよ、冗談だ、冗談。俺は名無しの権兵衛だから、名前はない」
 わけがわからないのに、妙に納得してしまって。昔とおんなじだ。
 どうだ、変わった話だったろう? そんな不満気な顔するなよ、ぼくは面白い話なんて持ち合わせていなきんだ。悪い、悪かったって。多少でも面白かったなら許してくれよ。まったく……。