海の中に沈む

海塚の企画・メモ・キャラ用ブログ

3/11 フリーワンライ

#深夜の真剣文字書き60分一本勝負
お題:文庫本と黒猫

 

 ……ああ、くそ、駄目だ! なんにも浮かんで来やしない!

 どうしようもない苛立ちを頭を掻き毟るようにしてひとまず発散する。大きな溜息をゆっくり吐いて、僕は一息つくことにした。
 椅子を軋ませて机から離れ、階下に降りてゆく。冷蔵庫を開けて、カップに牛乳を注いで、レンジの中へ。蜂蜜もなにもなし。文字通り、ホットミルクを飲むことにした。メモリを合わせてボタンを押して、じっと待つ間、ソファに身を沈める。
 落ちて、落ちて、墜ちて、堕ちて、沈んで、僕が溶けーー
 レンジの音で我に返った。いけないいけない、慌てて身を起こして取りにゆく。レンジを開くと甘い匂いが漂った。と、そこで気分転換なんだから何か物語でも読んでしまおうと思い立った。
 ミルクをリビングの机に置いて、ソファに座る前に文庫本を棚から抜き取る。「黒猫」というものがキーワードの小説で、僕の一番のお気に入り。不吉と言われる黒猫が人や猫、様々な生き物に関わってゆく話。
 文庫本を開いて、甘いホットミルク片手に猫を追う。今日の執筆はやめだ。猫に集中してしまおう。
 僕は猫だ。黒い猫。僕は彼で、彼は僕……。
 
 ふと目を開いて時計を見ると、本を読み始めてから4時間が経っていた。手元には自分の指が挟まった文庫本、机の上には冷めたミルクが少し。どうやら途中で眠ってしまったようだ。
 欠伸をしながら大きく伸びをして、身体を起こす。窓の外は……夕方。しまった、今夜はちゃんと眠れるだろうか。
 本をきちんと閉じてからミルクを飲み干して、カップを手に台所へ向かう。マグカップを洗ったら、手早く夕飯の支度をしなければ。気分は良いし、今なら何か書けそうだ。
 僕は単行本と黒猫に感謝した。