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海の中に沈む

海塚の企画・メモ・キャラ用ブログ

10/11 フリーワンライ

#深夜の真剣文字書き60分一本勝負

お題:小指の糸

 

 少女というには成長した、大人というには子供すぎる。そんな中途半端な時期がきみにもあっただろう。今から話すのはそんな彼女のおはなしだ。
 彼女には好きな人がいた。しかし彼女は奥手で、どころか実に内向的な子でね。話し掛けることさえできないという人見知りだったんだ。思い切って話しかけても数度会話をするので精一杯だったんだろう。よっぽど思い詰めていたみたいで、僕の店が見えたのさ。
 え? 普通は見えないのかって? そうだね。気づかないといった方が正しいけれど、どうでもいいじゃないか。それより今は彼女の話だ。
 彼女は店に入って驚いて、慌てて出ようとするものだから僕が引き留めて話を聞き出した。さっき話した通りだ。一応要約すると、
 好きな人がいるが、話し掛けるチャンスさえ掴めない。きっと一生関われない。
 そして、こんなことを口にした。
「あの人とはきっと、縁の糸も、赤い糸も繋がっていないんです」
 これに僕はピンときた。僕には弟が一人いる。その弟は、なんというか、変なものばかり売っているんだ。で、そこに運命を変える道具がある、なんていう話をこの間耳にしたばかりだったんだ。だから僕はこう言った。
「来週の今日、同じ時間にまたおいで。良いものを売ってあげよう。信じる信じないはきみの自由だけど、高くはないから買うといい」
 弟に話したら「胡散臭いにも程があるぜ、アンタ」なんて言われてしまったよ。
 それでも兎に角、半信半疑の彼女を帰したあと、弟にすぐ連絡を取ってね。運命を変える道具とやらを売ってもらったんだ。僕は貧乏だから物々交換で。何を引き換えに、って、ほら、話を逸らさない。いつか知ることができるから。
 送られてきたのはハサミ、眼鏡、手袋の三つ。詳しく話を聞くと、どうやら赤い糸に関連しているらしい。ハサミは赤い糸だけを切れる、眼鏡は赤い糸が見えるようになる、手袋は赤い糸を触れるようになる、とまあこんな具合に。
 小指の糸を操れば運命だって変わる。弟の言った運命を変える道具っていうのは、つまりこういうわけだったんだ。
 翌週、彼女はやってきた。前回は制服だったんだけれど、私服はブラウスとロングスカートにおさげ、手提げ鞄の控えめな格好だったよ。色や詳細までは覚えていないな。何せ扱う情報量が半端じゃないからね。おっと。
 決心したかのような足取りで真っ直ぐに歩いてきたから、此方としても誠心誠意対応させてもらったよ。彼女の決意に免じて割引き価格で販売させてもらった。なんと三点セットで七千円! お買い得! ……しかし残念ながら、不審そうな目つきは変わらなかった。何故だろう、やっぱり弟の言う通りなのかな。
 あとは次の週には報告しに来て、とだけ頼んで見送った。それだけさ。彼女がどうなったかは知らないよ。だってその後、彼女が僕の前に姿を見せることはなかったから。
 無責任? そんなことない。言ったろう、誠心誠意対応させてもらった、って。使い方も危険性も丁寧に教えてあげたよ。僕にしては珍しく。逆上なんかしないでくれよ? 店の中が壊されちゃ堪らない。
 ああ、そういえば。一ヶ月くらい経ってからだったかな。弟が例の三点セットを回収したらしい。彼女は一体どうしたんだろうね?
 
 さて、きみは一体何を望む? 一週間後にはお望みの道具を仕入れてあげよう。うん、うん。そうかい、わかったわかった。落ち着いてってば。
 ……またの御来店、お待ちしています。次は弟を頼るといい。僕よりよっぽど厳しいけれど、僕よりよっぽど人情的だ。
 それじゃ、また。