海の中に沈む

海塚の企画・メモ・キャラ用ブログ

8/21 フリーワンライ

#深夜の真剣文字書き60分一本勝負
お題:水たまりだけが知ってる

 

それは雨の日。きっかけは家から締め出されて一文無しだったこと。その日ぼくは、初めて雨を「食べた」。

 初めて雨を食べたその日から、ぼくはすっかり雨の虜になってしまった。少なくとも、雨の日は特別な味を口にできる日、とても楽しみな日、と頭にインプットされてしまっているくらいには。特に楽しみなのは嵐の日だ。嵐は雨だけでなく、雷だって呼んでくる。
 イクラとはどこか違う、口の中でぷち、と潰れるあの食感。それと共に溢れ出る雨特有の味。その味だって楽しみ方だって、雨ごとに違うのだ。
 霧雨は瓶で取ってクリームに、小雨はケースに入れてラムネのように。普通の雨は飴に、大粒の雨はすり潰してジャムのように。煮詰めることができないのから本当のジャムにはならないのだけれど、それでも充分。
 そうそう、さっき言った雷だって食べるんだ。これはちょっと難しい。小さな容器を沢山集めて、取るときに分けないといけない。
 大きいのを取ると舌がビリッと、アクセントの域を超えてしまって痛いから。小さい雷を取れたら小瓶に雨を入れる。そうすると雨は雷を纏って、ピリッとした、雨以上に風変わりな味になる。
 今日も今日とて晴れだけど、やっぱり同じく雨を食べる。舌の上でぴりぴりした雷を纏った雨を転がして、ひと通り堪能したらぷちりと噛み潰す。雨の味。
 もうすぐ夏。夏場は凍らせると一層美味しい。
 想像で頰が緩むのに気付いたが、構いやしない。だって今から楽しみで楽しみで仕方がないんだ。
 誰も知らないぼくの秘密。ぼくの楽しみ。誰にだって真似できない。これはぼくと、食べられ損ねた雨の、水たまりだけが知ってること。