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海の中に沈む

海塚の企画・メモ・キャラ用ブログ

4/9のフリーワンライ

ジャンル:オリジナル,お題:はばたく ソーダ水越しの景色

 

 ばさり。大きく羽ばたいた鳥を羨ましいと思った。

 わたしの日常はつまらない。同じことの繰り返しで変化がほとんどないから。

 朝の挨拶とともに差し出される食事を得る。そうしたまま主の話を聞いて、「いってらっしゃい」と見送る。そうしたらわたしは外を眺めて、空想をして、飽きたら眠りについて。夜に主が帰ってくるのをじっと待つだけ。わたしの生まれた意味は、なんて難しいことを考えるのは良い暇つぶしなのに親友たちが残念そうになるから、あんまりしない。

  わたしの地面からは泡が出ていて、しゅわしゅわなんて音を立てている。だから外の景色をみるときはぺったり壁に引っ付いて見るしかない。ここは残念だ。生まれてしばらくは知らなかったのだけど、どうやらこの泡が出ているのはわたしの立つこの床だけらしい。泡を退けて見る世界はわたしの部屋とはぜんぜん違う。不思議だ。

 主は魔術師というものらしい。主は自分で科学者だと言うけれど、知り合いやなんかは魔法使いや魔術師と言う。つまり主は自称カガクシャのマジュツシなんだろうか。よくわからない。どちらも正しくどちらも違う、なんて言わずに決めてしまえば良いのに。

 主はときどきわたしを外に連れて行ってくれる。こんな場所じゃ毎日退屈だろうといいうことらしい。「なら毎日連れて行ってよ」とねだってみたら困った顔をされたので、それ以降は一度も言っていない。やっぱり少しつまらない。

 それでも本当に退屈な日は珍しくて、普段は友人が遊びに来てくれる。彼女らは気まぐれだから、おしゃべりより面白いものがあるとどこかへ行ってしまうのだけど、それでも何もないよりずっと楽しい。

 きらきらした透明な羽を見るのも好きだし、体格は同じくらいで主みたいに大きくないから、プレゼントの服やなんかもくれたりする。それになにより、いつも外の話をしてくれる。そのあたりを飛び回りながら、主の仲間の人間っていうのにいたずらをした話や遠くに行って冒険した話、他にもいろんなことを。主たちが大きいのではなく自分が小さいのだということも、そうして教わった。わたしは何でも知っているけれど、見たことがないから知識が結びつかないのだ。ただ、彼女らは私のことを「小さな子」と呼ぶのはちょっと不満だったりする。大きさはそんなに変わらないのに。でも、鈴の音のような笑い声をあげる彼女たちは、わたしの親友だ。どうやら主も感謝しているらしい。

 けれどその彼女らも、わたしが外に出られない理由を訊くと、やっぱり困った表情を浮かべる。唯一、わたしが知らないもの。わたしはなんでも知っているけれど、わたしに関してはなにも知らない。なにか大きな理由があるのだろう。わたしには言えないような理由が。

 夜になると、主が帰ってくる。だから大きな声で「おかえりなさい!」と出迎えて、今日のできごとを教えてもらう。主の声はころころ変わるけれど、ちゃんとどれが主の声かわかるの。すごいでしょう。高かったり低かったり幼かったり。でも、全部主の声。ちゃんと聞き分けられることが自慢だから、ときどきわからなくなることは秘密。だって普段は落ち着いた、低くて優しい声なんだんもの。

 今日も主が帰ってきた。わたしは「おかえりなさい!」と声をかけて、今日の話をまたねだる。退屈でつまらない日常だけど、心の底からそう思うことが滅多にないのは幸せだ。

 主は今日も私をこう呼ぶ。

ホムンクルスアフロディテ