海の中に沈む

海塚の企画・メモ・キャラ用ブログ

5/14 フリーワンライ

ジャンル:オリジナル,お題:最後の人類

#深夜の真剣文字書き60分一本勝負

 

 人類は滅亡するんだ。もうお終いだ。目が覚めたばかりの夢心地でいた時に、そう誰かが言った気がした。
 何を馬鹿なと外を見ると塵が降り積もっていて。空を見上げると雲に覆われ薄暗くて。恐竜絶滅の一説にこんなシーンがあったっけ、なんてことを思い出した。
 ひとまずはっきり目を覚ますために珈琲を入れる。電力が残っていてよかった。そのうち貯められた電気もなくなって死ぬんだろうけど。その前にあっさり死ねたらいいなあ。砂糖を少しにミルクを入れて、小さなスプーンでくるくる回す。ああ、美味しい。
 着替えて学校へ行こうと思い立ったところで人類は滅亡したのだと思い出した。つい普段と同じ行動を取りたくなってしまうらしい。あ、洗濯物とかどうしよう。いや、そもそも人類が滅亡したなんて確認をしていないのだから、学校はあるかもしれない。某未来に漂流した教室みたいな感じで。
 確認のためにパンを食べながらテレビを点ける。時計が示すのは十一時。ひとつめ、砂嵐。ふたつめ、砂嵐。みっつめ、真っ黒。よっつめ、砂嵐。いつつめ、通じてない。むっつめ、砂嵐……結局のところ、どこも繋がっていなかった。ラジオはどうだろうと、手元の薄っぺらい画面をタップする。やはりというか、どこにも繋がらない。
 そのうち何故だか無性に砂嵐の音が恐ろしくなって、ぷつりと切ってしまった。
 電波マークも立っていないため連絡は諦めて、冷蔵庫を確かめる。食糧が残り少ない。学校には行かずに、コンビニとスーパーを回って缶詰の山とその他諸々を運んでこよう。そうしよう。念のためマスクと上着、それから帽子を被って家を出た。ああ、本当に人類が滅亡したのだとしたら、実家暮らしじゃなくてよかった。
 一面塵だった。雪のように降り積もった塵に足跡を残して歩んでゆく。人類どころか他の生き物の気配もない。本当に滅亡したのかもしれない。……無音。昨日までごく普通で何も起こらなかったというのに、眠っている間に一体何があったのか。足を動かすごとにふわふわと舞う塵の中で、電気の流れていない家や店を眺めながら向かう先はスーパー。理由は簡単、一番物が揃っているから。
 電動の扉をこじ開けて中へ入る。あ、薄暗いのに懐中電灯も何も手にしていないや。真っ先に百円ショップへ入って電気を調達する。うちに電気が通じていてよかった。漫画でよくあるご都合主義のようだ。必要そうなものをカゴに詰めてから、パッケージを開いて使えるようにする。
 使えるかどうか確認に、と店内を照らしたのが悪かった。レジに倒れ込む、目を見開いたままの店員の姿。それをきっかけに、無意識に排除していた情報に気がついてしまった。後ずさる。その先でも、踵の部分に嫌な感触。考える前にその場から逃げ出した。
 扉を閉めて鍵をかける。上着もマスクも取り払って座り込んだ。恐ろしかった。目に入ったのは多くの死体。どこもかしこも死体ばかりで、先程踵にぶつかったあれもきっと、ああ、駄目だ、どうして気がつかなかったのだろう。目が覚めて事実を知った時からずっと、現実逃避をしていたのかもしれない。それが、あんな急に突き付けられて。
 こわいと、恐ろしいと思った。帰り際に見たものは出入り口付近に折り重なる死体。ペットショップの、死骸の入ったガラスケース。どう足掻いても独りでしかない。何があった? だって、昨日まで何もなかった。騒がしいのは嫌いだったけれど、独りになりたかったわけじゃない。なのに、どうして。
 ほんの少しだけ落ち着いて、持ってきたカゴを確認する。怖くない。大丈夫。死ぬわけじゃないんだから。生き残れるならそれでいいだろう。随分と便利になった百円ショップの食糧と、電池。ライター。蝋燭。こんなに入れていたのに投げ出さなかった自分に拍手を送りたい。大丈夫、一人でも生きていける。これが尽きたら再びあの場へ行かなければならない、ということは、今だけは考えたくなかった。
 それでもあの死の感覚と恐怖を遠ざけたくて、忘れたかった。気にかけたくなかった。だからこの日以来、なにかと理由をつけては家中の鍵をかけ、極力家の中だけで生活することになる。
 これが私の一日目。