海の中に沈む

海塚の企画・メモ・キャラ用ブログ

5/28 フリーワンライ

ジャンル:オリジナル,お題:言の葉を散らす,季節はずれの蛍

#深夜の真剣文字書き60分一本勝負

 

 帰り道。視界の隅にふわりと淡い光がよぎる。振り返ってそちらを見ると、どうやら蛍のようだった。季節にはまだ少し早いのに。ああいや、そういえば早く飛ぶ種類の蛍もいるんだっけ?
 そんなことを考えながら、そっと後を追う。なんとか道が見える程度の暗い田舎道を、蛍に先導されて歩んでゆく。道を逸れて、川を渡って、階段を登って。辿り着いたそこは、小さな社の前だった。
「こんなところに、こんなのあったんだ」
 へえ。呟いて近くに座る。季節はずれだろう蛍も隣にとまる。光り方からして、おそらくゲンジボタル。社の前に子供と一匹、傍から見たら面白そうだ。なんて思うと小さく笑いが漏れた。
「ねえ、どうしてそんなに早く生まれたの」
「世界が見たかった?」
「我慢ができなかった?」
「それともおっちょこちょいだったとか?」
 尋ねるたびに淡く、けれどはっきりと光を放つ蛍がおかしくてまた笑った。それからもぽつりぽつりと会話を続けて、気がついたらもう道は見えないほどに真っ暗で。
「……しまったな」
 ため息をつく。どうやって帰ろうか。携帯電話の充電は心もとないし。
「蛍さん蛍さん、送ってくれない?」
 冗談だ。会話だって、言ってしまえば独り言なのだから。これは迎えに来てもらうしか、と、携帯を漁るために鞄を開いて——蛍が飛んだ。飛んでいく道はたしか、来たときと同じ方向。
「……え、なに、送ってくれんの」
 一瞬呆気に取られて間抜けな声が出たのはご愛嬌というやつだ。たまにはこんな変わった体験もいいかもしれない。蛍に送ってもらうなんて。信じて後ろをついてゆく。駄目でもともと、けれど迷子にならないようにだけ祈りながら。
「蛍さんやっさしーい」
 ある日ある時、季節はずれの蛍と過ごした話。