海の中に沈む

海塚の企画・メモ・キャラ用ブログ

そのうち書くかもしれない単発ネタ集

小ネタばっかり最早メモ

 
夢の中の人に会うために、ぼくは毎晩早寝する。しかし困ったことに、夢の中でも眠くなるのだ。だから眠くなると、片方が片方に声をかける。そんなやり方でいつも乗り切ろうとするものの、毎回同じ時間に強烈な眠気に襲われて眠ってしまう。彼女も同じ。きっと眠くなる時間は、現実でいう朝なのだろう。
 
死に際の猫について死に場所を探す話
 
「俺1人が死ぬどころかテメェ等全員死んだところで世界が終わったりなんざしねぇんだよバァカ」
 
悪魔憑依させて寿命伸ばした人間とそいつぶち殺して魂とっとと回収したい死神ください(って言うのを見かけた)
 
人形には心が宿る。有名な話だ。それは当然、ぬいぐるみにも当てはまる。ぼくの部屋のぬいぐるみは生まれた時からずっと一緒だ。いい歳をして捨てられない自分に呆れてしまう。けれど、彼か彼女か、とにかくその子は喋りだした。会話は思い出話だって、なんだって。ぼくの兄弟は心の宿ったぬいぐるみ。
 
夜は嫌いだときみは言う。暗くて寒くて冷たくて死んでしまいたいと思うくらいだと。どうしようもなく不器用な僕はきみの心に気付けない。だからもっとちゃんと伝えてと言ったけれど、きみもそんなに器用じゃない。合図でも作ろうか。幸い部屋は隣同士。合図の音はノックを3回。今日も隣部屋を訪れる。
 
風が冷たいなんて言葉も雨が痛いなんて言葉もベタベタで、僕の言葉は見つからない。使えるのは道端に落ちているようなものばかり。使い古された言葉を繰り返す理由は単純、きっと僕には生み出せないから。ただそれだけ。それでも何かを伝えようと、僕は毎日言葉を探す。僕が伝えたい、僕だけの言葉。
 
聖歌を歌う幽霊は神の国を想う。神の国へ行きたいと願い、日々歌う。歌う中身は鎮魂歌。誰にも祈られないがために、自身で歌う。行けないと知っているのに、それでも諦めきれずに。周囲が消えても変わっても、ずっとずっと、ただ1人で。
 
夜は街の雰囲気が変わる。別世界なんじゃないかと考えるほどに。僕らが出会ったのも、深夜2時という別世界でだった。
 
あれも夢、それも夢。きっとこれも夢だから。ぼくが痛いと感じることも、ぼくの頬を濡らす存在も、ぼくがこの世にいることも、何もかも夢なのさ。夢なら醒めなきゃ駄目だろう?好きな物を夢の中で食べながら、階段を登る。登りきったら落ちるだけ。紙屑ぽいと放り投げ、それではみなさん、現実で。
 
記憶のない人を捕らえて「日記をつけたら思い出したことも忘れないだろう?」って書いたことを忘れるノートを渡して毎日同じことを繰り返す話
 
ふと現れる文字と会話する人
かさりと手に触れたのは古い紙。あなたはだぁれ?初めはそんな一文。なんだこの紙。そう思って放置したのがいけなかったのか。紙は色々な場所で目につくようになった。手帳を開いたとき、張り紙広告を見たとき、朝目覚めたとき。どれも不快な内容ばかりで、気持ち悪いと捨てたのに現れる。
しかも厄介なことにこの紙、他人には見えないらしい。幻覚かとも思ったが、手に触れる感触は確かにある。病院に行くべきなのか、これは?首をひねる。ひねったところで答えなんて浮かばないが。浮かぶなら既に実行している。どこもかしこも紙が混ざっていて落ち着かないことこのうえない。なんだこれ。
 
与えた感情が実る樹。与えた感情は与えた人から消えてなくなる。
 
静電気に触れたことがなかった。コンセントに触れて流れるはずの強力な電気が僅かに流れたことだって、小学まで。そして最近。携帯やライトの電池の減りが異様に早くなった。買ったばかりなんだが、と修理へ出そうにも異常なし。でも明らかにおかしいじゃないか。最小限の機能で夜までもたないなんて。
 
コップの中に宇宙を注いで飲み干した。
透明なグラスをひとつ。氷を入れたらひとやすみ。何を入れよう?扉を開けて、暫し悩んで。これと手にした液体を、丁寧に流し込む。黒に瞬く小さな光。グラスの八分目あたりで手を止める。そっとスプーンでかき混ぜれば爆ぜる音。ぱちぱち、きらきら。液体の入ったそれを一息に飲み干せば、ピリッと甘い味がした。
 
ひとりの落下
後ろに倒れて転がり落ちる。目隠ししていて周りは見えない。足もとだって、空だって。終わりのない暗い暗い闇の中、1人で落ちる。墜ちる。堕ちる。君は、君は、僕は誰?
「落下は死ぬまで、永遠に。さようなら、僕の愛さなかったひとびとよ。せいぜい這いつくばって生きやがれ。」
黒いスーツに黒い目隠し。ステッキ掲げて両手を広げ、彼は闇に消えてゆく。背中からゆっくりと傾いて、落ちるほんの一瞬、されど一瞬。いびつに歪んだ表情は、何かを堪えるようだった。
 
 
食人鬼と料理人
ぱくりと一口。飲み込んだらもう一口。いくら食べても足りなくて生み出す人までぱくりと一口。二口。残ったものはひとりと食器と骨ばかり。物足りないと言ってみた。何も変わりはしないけど。ひとりのものは僅かに嘆いて立ち去った。
 
魔法使いと湖の話。
湖に棄てられた気持ちや思い出が溜まって水が濁り始めて気づいた時にはもう手遅れで、真っ黒な湖ができあがる。思い入れのある湖だから元に戻そうとするも、その水で生活しているから穢れは体内にもある。けれど湖に気を取られて思い至らず、戻そうとして最後は穢れに飲み込まれる。
 
「色褪せる」
見える色が徐々に減っていく話。始めは黄色とレモン色のような、小さな差がわからなくなるくらいでゆっくり見える色が減っていく。最終的には原色3つと白黒の計5色しか見えないようになって、三原色すらも見えなくなる。白黒の世界。ってとこまで考えた。オチはない。
「これ、こんな色だったっけ?」
ピンク色の小瓶。先ほど綺麗な小さい花を貰い、どうしようかと考えた時に思い出した物だ。これは確か、そう、もっと透明感のある桜色だったような。いや、3年も前のこと。記憶違いかも知れない。
 手に取った小瓶に水と花を入れて窓際に飾る。そして部屋を振り返りーーそこで初めて、違和感を覚えた。いつもと何ら変わりない部屋。しかし、明らかにおかしい。じっと部屋の中を観察する。
 何が違う? 匂い? 同じだ。家具の配置? これも同じ。何か出しっ放しの物は? いや、ない。
 なら何が、と、気づいた。なぜ今まで気がつかなかったのか。
「色が、ない」
 部屋が白黒になった、などではなくて。
 例えば、淡い緑の毛布と深い緑のカーテン。例えば、青い空と碧い海の壁に貼られた風景写真。
 同じ色のはずがないのに、どう見比べても同じ色。そんな些細な色の差が、この部屋からは消えていた。
 
「写真」
綺麗なものを残すために写真を撮るが写真も劣化してしまうから写真そのものに魂を入れたら劣化しないんじゃないかと考えて被写体を「魂ごと」撮影してみたらとても上手くいって劣化しないからどんどん色々なものを撮影するけれど気付けば周囲に命あるものは存在しなくて独りになっていた話。
 
「どうにもならない」
大事な物を壊してしまう話はよくあるけど本当に大切だったら代わりになるものはないし開いた穴を別のもので埋めることなんてできるはずがないと思うので、穴を開けては新しい別のもので補修しようとしてを繰り返してぼろぼろになる話を。最後は泥で満たして歪でも幸せそうに笑う。
 
「世界はまわる」
気が向いて旅先で普段はしない変わった行動ばかりをとってみるけど帰宅して1日の終わりにふっと旅先と帰宅したときのことを思い返して自分が変わったところで世界はいつも通りだなぁって思ってなぜか可笑しくなって大笑いする話
 
「回顧主義者の邂逅目録」
懐古主義者というには苦い思い出ばかりで未来は見えない。あいつもこいつもあの子もその子も、記憶に残る出会った人達。いない人達。皆目の前から消えていった。そう、例えば彼女は。思い返しながら、薄くはないノートを捲った。記憶と写真、記録と夢で過去に行く話。
 
「変わらない、変われない」
少年の生きる世界があまりにも息苦しいから周囲を変えたけど環境を変えても世界の本質は変わらなかった。ならせめて生きやすいようにと自分を変えようと10年近く経っても何も変えられなかったから、やっぱりこの息苦しい世界で生きるしかないんだなって諦めるお話
 
「つめこむ」
小さい頃大切な物を仕舞わなかったせいで壊れた経験をして以降なんでもかんでも、特に大切なものをしっかり仕舞うようになって、仕舞っても見つかれば荒らされることを知って、開かないよう詰め込む癖のできた子があるとき大事な箱を中身ごと壊してしまって「なくなっちゃった」って呟く話
 
「世界の終わりに夢を見た」
休日前のある日、幼い頃の夢を見る。夢の中のその頃は幸せで満たされていたのに、ふと周りを見ると誰もいなくて独りきり。何かが抜け落ちたかのようになった時、目が覚める。寝起きの頭でああ、いま夢を見ていたんだなと内容を思い出しながら起き上がる。違和感。朝食でもとキッチンに向かった時に眠る以前の感覚、というか、考え方というか、気持ちの持ちようというかがすべて変わってしまったことに気付く。以前の自分はどんな人間だったかと思考を巡らせてみても結局思い出せず、変わってしまったいつも通りの日常を送る話。
 
「うそつきの嘘」
声にして発された嘘を取り消すことはできなくても嘘の上に嘘を修正するための嘘を重ねれば真とは異なる嘘を真に最も近い嘘にまで正すことができるんじゃないか
 
「臆病な人」
もしも、もしも人を好きになったなら、その時はいっそ死んでしまおう。優しくとても臆病な、人を愛したくない人の話
 
「love me please!」
愛されたがりが「誰からも愛される薬」を飲んでこれで幸せになれる、満たされると思ったけどすれ違った知らない人も唯の知り合いも親友もみんながみんな「恋愛感情として」愛されたがりを愛すから心の落ち着く場所も相談相手もいなくなって「愛される」ことと引き換えに安らげる居場所、「恋人ではない自分」が消える話
 
「想い出の小瓶」
大切な、忘れたくない記憶がどんどん抜け落ちていく。ある日ある場所で見つけた店で、記憶を閉じ込めることのできる小瓶を見つけて買い込む。零して、拾って、仕舞ってを繰り返すうちに記憶の詰まった瓶で部屋が溢れる。こんなに忘れたくない思い出があったんだなぁと思うけれど、閉じ込めたものは小瓶を通じてぼんやりと感じ取ることしかできない。だからせめて、ともう1度立ち寄った店で大瓶を買い、死ぬ間際に大瓶に全部注いで思い出せない懐かしい記憶の中に溺れる
親友でも兄弟でも想い人でもいいから大切な人と一緒に過ごしてる時に、記憶の小瓶を振りながら「思い出せないんだぁ」って少しだけ寂しそうに笑う、記憶を零す人
最後の最後には魔法使いが来て「毎度ありがとうございました」と口元に笑みを浮かべながら瓶だけを跡形もなく回収し、立ち去った後には記憶に浸かっていた死体がひとつ残される
 
浮き輪で空見上げて浮かんでいると、あっと思うと同時に下に引きずり込まれて
 
 嫌いなんだ、本当に。嫌いなら見なければいい。声をかけなければいい。認識しなければいい。それはわかっている。わかっているけれど、どうしても目につくのだから仕方ない。
 例えるならそう、自分の中のそいつはまるでゴキブリみたいで。独り言も、一瞬視界に入った姿も全て、存在そのものに苛立つんだ。
 
「嫌われ者の魔法使いと悪魔」
自分なんていらないよなと思った嫌われ者の魔法使いの処に「なら魔力くれ」って悪魔が来る。魔法使いは「やるけど、自分が生きてる間にこの世界に手出ししたら殺す」と返答。「なんで?」「愛しているから」「はあ?」まあ、暇な悪魔にすれば一生なんて短期間だしご馳走貰えるならって契約して居候。過ごしていくうちに、思ったより(人は除くけど)世界は綺麗だと感じて、憐れむ。お前は世界をこんなにも愛しているというかのに。
 
自分の一部が生きていると現世に留まれること、知り合いのところに自分があるらしいことを聞いたので会いに行ったら喧嘩相手だった話
 
可笑しな贈り物
 昔一度だけ、俗に言うプレゼント交換をしたことがある。相手はカティで原因は竜。僕らの仲が悪いからという理由らしいけれど、根本的な部分から相容れず犬猿の仲である僕らがプレゼント交換で仲良くなれるはずがないじゃないか。なんて口に出かかって、慌てて飲み込んだ。何せカティの方は承諾しているという。拒否できるわけがない。なんて単純な負けず嫌いなんだ。カティが絡むとどうにも駄目らしい。
 
「馬鹿馬鹿しい」「告白」
 きっとこれも嘘なんだろう? 何故だって? この世に本当なんてないじゃないか。あれも、これも、どれも嘘。圧倒的多数の嘘と、極少数の真実。信じない方が身の為だろう? 小さな声も大きな真実も、すべて嘘で掻き消せる。信じろって方が無理ってもんだ。さっきの言葉だってそうだ。あれが仮に真実だったとして、こっちが否定すれば多数の認める“真実”にはなり得ない。仮に多数に認められなくても、伝えたい相手の“真実”にはならない。だからほら、な? 諦めろ。
 
「夏と涙と雨」
 暑い。普段からじめじめ蒸し暑い癖に、今日はそれに加えて雨である。暑すぎる。じっとりした空気は好きじゃない。せめてもの抵抗と、ひたすら団扇で生温い風を送り続ける。夏というのは冬と違って質が悪い。なぜかって? 単純だ。冬なら着れば着るだけ暖かくなるじゃないか! ああ暑い、冬が恋しい。
「あつい……あつい……」
 呪詛を唱えるように呟き続けて早1時間。その間ずっと歩いている。言霊は知っているが言わずにはいられない。暑いものは何をやっても暑いのだ。
 
「無関心」
「知ってる?好きの反対は無関心なんだって」
「そんなわけあるか」
 普段通りニコニコ話す彼女の言葉は切り捨てた。それに対して彼女は「ひどーい」と言うだけで相変わらず笑っていた。いつもそうだ。何をしても、何を言っても、まるで仕方ないなあと言わんばかりの様子で、特に気にすることなく笑っている。まったく不愉快極まりな……いや、天使がそんなことを言ってはならない。ただでさえ堕天しかけと言われている俺が仲間にそんな感情を抱いては、本当に堕天ルートまっしぐらだ。それだけは回避しなくては。仮に堕天したとしても神に反逆しない限りは堕天使も天使で、仕事だってあるのだが。
 ええ、私は平気ですとも。不愉快だなんて微塵も思っておりません。側に座っている彼女だって同じ神に仕える天使です。私が彼女自身を否定することはありません。意見はしますが。
 なんて1人で考えていても誰にも気付かれない。俺の様子すら伺わずに彼女は勝手に話を進めている。これもいつものことだ。
 何も変わらないのを承知でこっちの気も知らないで、などと毒づいてみる。そこでようやく彼女はこちらを向いた。
 
宝石
一定の症状が出始めると、直径数センチのとても綺麗な石を吐く。それを吐く時に小さな宝石の欠片もそこそこ吐く。
瞳の中に宝石の色が混ざる。目に光に当てれば僅かに輝く。ただ、近くで本当に注意深く見なければ気づかない。
他の症状は宝石と人による。失明、痺れ、声の喪失……これらが複数現れたり、一つだけ現れたりと様々。
宝石は本人に因んだものが現れるとされている。
症状が進むにつれて身体の表面が宝石になり、包まれる。
目にキラキラ→痣くらいの大きさの宝石できる→小さなタトゥーのような模様ができる→ゆっくり模様が広がる(吐く→他の症状)→身体の半分以上に広がったら模様の隙間を埋めるようにも広がる→覆われる→徐々に厚みを増す→死の流れ。
最期は宝石に閉じ込められたような形になって死ぬ。
宝石は患者の一部であるため、削ったりすると患者も傷つく。
発症者の共通点は負の感情が他者より強いこと。
負の感情が強ければ強いほど美しくなる。
例外は憎悪。
発症の原因は不明。
対処法も不明。
個人差があるものの、基本的に進行は遅い。
 
「吐き気」
吐きたい。今にも吐きそうなくらいの気持ち悪さと不快感。もやもやと胸に溜まる苛立ちと声にならない声。いっそ吐いてしまいたい。吐き出してしまいたい。吐き出しても余計不快感が増すだけなのは知っているが、もしかしたら存外すっきりするかもしれない。ぐるぐる、どろどろ、ぐちゃぐちゃ。不快感が胸に留まる。ああ吐きたい。まあ、汚いからしないけど。その代わりに大きく息を吐き出した。
 
「応答、願います」
聞こえない。
喧騒も自身の声も、呼吸音さえも。
あー、あー。と断続的に、一定間隔で音になるはずのものを吐き出す。
無音。
あー、あー。
聞こえない。なぜ。どうして。わからない。
糸が切れるように、唐突に音が消えた。
あー、あー。
普通に歩いて、普通に帰宅して、普通に……。
あー、あー。
誰か、誰か。
 
「眩しい」
偶然。
一瞬僅かに目を細めて、もう一度見る。光ってなどいなかった。
それもそうだ、人間の目が光るわけがない。
けれど確かに、彼女は明るい。
ぼくの目はきっと潰れてしまったのだ。彼女の瞳を見た時に、眩しくて眩しくてイカれてしまったのだ。
ぼくはもう、彼女の後ろを見つめることすらままならない。
 
「ひとり」
消えたいのなら消えればいい。誰も止めなどしないのだから。
それを聞いた彼女は何を考えているのかわからないまま、目の前から姿を消した。本当にいなくなった。
自分にとって関係ない。
けれど、彼女が言った「また一人?」の声が頭から離れなかった。
 
「壁」
壁を作った。コンクリートなんてないしから、泥を使って壁を作った。少しの水と土を混ぜて手をドロドロにして。泥の壁は壊れやすい。完成した場所から、ボロボロパラパラ崩れてしまう。それでも壊れないように修復した。休まず必死に絶え間なく。自分の城を守るために。誰もいらないから扉はいらない。誰も入れない。ここにいるのは自分だけ。傷付くのは怖いから。誰かが手を出してくるわけじゃないけれど、壁がないと縋ってしまいそうだった。近付けば傷がつく。近付いてはいけない。絶対に。恐怖が増すだけなんだ。外に出てはいけない。危ないから。恐ろしいから。だから今日も、脆い壁を作り続ける。
 
「日常的非日常」
 後ろから音がする。とことこと、ぺたぺたと、ぱたぱたと、音がする。振り向いてはいけない。小さな足音は可愛らしい。それと一緒の小さな話し声が無ければの話だが。
 全然きてくれないね。名前も教えてくれないし。返事だってしてくれない。いじわるだよね。きっともうちょっとだよ。やってみよう。この人がこっちに来るまで。まだかなぁ。
「煩いな……」
 背後に続くは誰にも見えない子供達。ついて来てから早数年。彼らは自分に振り向いてもらうことを期待している。認識されている、と確信している。だが、振り向いて声を返せばあの世行きなのは知っている。だから絶対に返さない。返事はしない。これは全て、独り言だ。
 当たり前の日常と、当たり前の非日常。
 
怖かった。拒絶も、裏も、批判も、優しさも、何もかも。
一度疑うともう止められなかった。
元々暗く考え込んでしまう質だ。
限界だ。そんな時、思い付いたのだ。
自分が誰とも会わなければ、誰も傷つかないじゃないかと。
気づくのが遅すぎたと感じる位単純かつ明快な答え。思い付いて直ぐに外界と自分の繋がりを極力シャットダウンすることにした。
 
「迷子」
こわい。たすけて。
ここはどこ? ぼくはだれ?
暗い。暗い。
歩きまわって歩きつかれた。
だれかぼくをみつけて。
小さな声すら出なかった。
 
「音」
 無音。聞こえるのは自分自身の息遣いだけで、それすらも聞こえなくなりそうな無音の空間。
「みんなみんな、殺してしまえ」
  漏れた音は空気に溶けた。
 
「落下」
 落ちて落ちて、落ち続けて。限りなく黒い世界を限りなく落ちてゆく。遠のく空を見上げながら下へ下へ、もっと下へ。
そう、まるで、
黒い闇に呑み込まれるかのように。
世界に呑み込まれるかのように。
まわりの世界は呑み込まれた。
自分の世界は呑み込まれた。
自分自身も呑み込まれた。
最期は何も残らない。