海の中に沈む

海塚の企画・メモ・キャラ用ブログ

8/26 フリーワンライ

その手は

コップ一杯の感情

遠い日の思い出で生きる

道端にさく雑草

遮る

 

 

 

 夢だ、と思った。特に確信はないのだけれど、夢だ、と。

 優しい風の吹く草原で、ぼくは横たわっていた。まぶしい太陽から陽を遮るために手をかざす。青々と広がる空が、白い雲が、見えなくなる。草の香りはしない。そういえば虫もいない。

 ゆっくりと上体を起こして周囲を見回しても何も見えなかった。ただただ空と、草原が広がるだけ。まったく生き物の気配のない広々とした光景に、思わずほう、と息が漏れる。

 久々の感嘆だった。

 感情というものは厄介で、断ち切れない想いや未練を断ち切れなくなってしまう。だから瓶に詰めて捨ててしまった。はず、なのだが。

 どうして今、この光景に感動したのだろう。首を傾げる。

 くるり

 視界が変わった。やはり夢で正しいようだ。次の場面は町中。こちらもひとっこひとりいる気配がない。洋風、和風、近代、現代、中世……まるでまとまりがない。

 風景の変わる街をあちら、こちら。空の色も街並みも、道も、絶え間なく変わり続ける。

 歩き続けるうちに、見慣れた道へ出た。馴染みの扉に手をかけて、引く。自分の家の扉は施錠されていなかったようで、想像以上にすんなりと開いた。

 一歩、足を踏み入れる。

 一歩。一歩。一歩。

 どうしてここへ向かっているのだろうと疑問が浮かんだが思考がまとまらず、呆気なくそんな疑問は霧散してしまった。

 玄関、廊下、リビング。リビングへの扉に手をかければいつもと同じ光景が

「あれ」

 ない。

 家具も何もない空間にあるのは、テーブルと、コップ。その隣のアクセサリー。鈍色に光るそれは胸がざわついて目をそらした。代わりにコップを手に取る。

 透明なグラスをよく見ると何かが入っているようで。なぜか重たかった。ぼくの目には何も映らないのに不思議なものだ。

 カップの下には折り畳まれた小さな紙。

 ぼくはこれを知っている。

 内容は、そう、

『コップ一杯のプレゼント』

 一気に中身を傾けた。飲んだところから焼けるような痛みが喉を刺すような痛みが、苦しくなってうずくまる。

 アクセサリーは死んだ恋人のものだ。

 ぼくは以前にも繰り返した。

 遠い日の思い出の中だ。ここは。恋人と共に訪れた場所、家族との思い出の場所。

 ぼろぼろと涙を流して嗚咽を漏らすぼくの頬に、柔らかい手が触れる。

 この手の感触も、ぼくは知っている。その手は

 

 そのままぼくは眠りに落ちた。