海の中に沈む

海塚の企画・メモ・キャラ用ブログ

11/5 フリーワンライ

#深夜の真剣文字書き60分一本勝負

お題:濡れた日,ジャンル:オリジナル

 

 

 ぬかるんだ土に足を取られて転んだ。それはもう、水溜りに向かって顔から、盛大に。
 痛みに顔を上げるとそこは別世界だった。
 空を見上げる。真っ暗だ。地面を見下ろす。真っ青だ。水溜りだったところに立ってはいるが、どこにも雨は降っていない。ただ、雨音だけは静かに響いている。
 荷物があるのを確認して、一歩、「元」水溜りから足を踏み出した。ぱちゃんという音と共に靴の表面に水が跳ねる。どうやら水溜りだったところが地面に、地面だったところが水溜りになっているらしい。加えて空は地面、地面は空。ややこしいことこの上ない。ここは土溜まりと呼ぶことにしよう。
 ステップを踏んでリズムを刻んで歩を進める。軽快なおととは裏腹に、景色は一向に変わらない。
 しばらくするとそれにも飽きてきて、今度は土溜まりを選んで飛ぶことにした。それにしても、人の気配も何もない。 反転しているからだろうか?
 こんなに緊張感がないと親友に怒られてしまいそうだ。鬼のような形相で怒鳴る姿が目に浮かぶ。頬が緩んでしまった。
 土溜まりを飛んで、飛んで、民家を覗く。見当たらない。
 スーパーを覗く。賑わって熱気と活気で溢れている、とはさすがに言い難いが、混雑している店にも誰もいない。
 いつも子供たちの笑顔がたくさん見ることの出来る保育園にも、誰もいない。
 近所のパン屋さんも、手芸屋さんも、本屋さんも閉じている。
 ……ここには本当に、自分ひとりしかいないのだろうか?
 少し、寒気がした。こんなつまらない場所は帰ってしまおう。そう考えてやっと気がついた。
 自分は、どうやって帰れば良いのだろう?
 ここに来たのは本当に偶然だ。来ようと思って来たわけじゃない。
 幻想的で空想的な世界へ行きたいと思っていたのは本当だ。平平凡凡な日常に飽きていたわけではないとも言いきれない。けれど、望んだのはひとりぼっちのこんな世界ではないはずで。
「帰りたい」
 ぽつり。
「帰りたい」
 そう、帰りたい。寂しいのは嫌いなんだ。
「帰りたい……!」
 絞り出すような声で、言い聞かせるかのように何度も呟く。声にしたところでどうにかなるはずもないが、ひとりぼっちの気が紛れると思った。当然、逆効果だったようだけれど。
 駄目だな。どこかで休もう。それから考えたらいい。ふらりとその場を立ち去——
「なら帰れよ」
「え」
 背中を思い切り押されてつんのめる。
 誰だ今のは! 何で押した! ひとりじゃなかった!?
 一気に多くのことが頭をよぎり、思わず後ろに目を向けるも相手の顔すら見えないまま見事に、
「へあっ!?」
 元の世界でそれはそれは派手な音を立てながら、大きな水溜りに突っ込んでいた。制服も鞄も靴も靴下も、いっそ下着まで濡れる大惨事。それでも何が何やらわからなくて。
「……なんだ、いまの」
 呆然と呟いた声は足元の水に溶けた。