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海の中に沈む

海塚の企画・メモ・キャラ用ブログ

ある夜

SS 創作

うなされるヴァウくんを寝かしつけるバート、というだけの。ワンシーン。

 

「……やかましいぞ、ヴァウ」
 俺が眠れないのは──正確には「起こされた」だ──こいつのせいだ。隣でうなされている、背中越しの相手に小さくため息を吐いた。
 こういうことは今に始まったことではなく、以前からもあることだった。不定期に、気がついていないだけで定期的にかもしれない。隣のこいつは酷くうなされることがある。理由を尋ねたことはない。聞く必要があると思ったこともなければ、必要性に駆られたこともないからなのだが、こうも繰り返すのならいい加減どうにかするべきだろうか。
 隣で眠るのは勝手にこいつが出て行ったときにすぐ気づけるだとか、ガラの悪い連中に見つかったときに対処しやすいだとか、暖を取りやすいだとか、とにかくメリットが多いからだ。……この、うなされるという点を除けば。
 ベッドを軋ませながら寝返りを打ち、薄くまぶたを上げる。変わらず黒々とした視界の中では何も見えない。早々と目を閉じた。暗闇で目を開けるのは疲れてしまう。金属の冷たさを覆うための布に手を当てて、緩和されたとはいえどこか硬い感触を頼りに、やつの頭を探る。義手、なのだそうだ。出会ったときには既にこの腕だった。夏なら冷たくて心地好い。冬は寒いから布を巻かせる。まあ、見せたくないらしく基本的に長袖に手袋をしているため、冬に上から巻く必要などあまりないのだが。
 ──こうしてみると、俺はこいつのことを何も知らない。
 気持ちが悪かった。
 たどり着いた頭に手を乗せる。ふわり。見た目よりも柔らかい髪に手を通して、ぼさぼさであろう髪をこれ以上乱れないように、整えるように撫でつける。どうせ寝つけばまた乱れるのだから構わない気もするが、これは性分としか言いようがない。
 うなされる声が静まるまで延々とこの慣れない行為は続く。できるだけ起こさないように、できるだけ傷つけないように。普段はあれだけお喋りなくせ、こういう面がとても……とても、なんだ? ……怖い? まさか。こんなやつに不安を抱く必要がどこにある。止まりかけた手の動きを再開した。
 優しくするのは、こうするといくらか早く静かになるからだ。
 振りほどかないのは、そのうち離れていくと思ったからだ。
 なのになんだ、こいつは。おれの名前を連呼して、犬のようにひっついて、離れるどころかより一層、好いてくる。
「頭足りてないにも程があるだろ」
 こいつは実に馬鹿だった。どうしようもないほどの馬鹿だったのだ。もしかすると、おれも。寝息が落ち着いたのを確認すると、暖を取るために少しだけ距離を詰めて、意識を手放すことにした。