海の中に沈む

海塚の企画・メモ・キャラ用ブログ

偶像崇拝

とっても短編

 

 加藤彩。彼女はいつも私の背を見ている。私は憧れられている。自意識過剰ではない。これは彼女自身がずっと言っていることであり、私もずっと感じてきたことだった。

 私が彼女にできないことをするたび彼女は「すごいね」と告げる。

 私にはできない。流石だね。そうして最後に必ずこう述べた。

「やっぱり柚子ちゃんは憧れだよ。大好き」

「そんな大層なものじゃないのに」

「また謙遜ばっかりしてー」

「だから、違うんだって」

 彼女は私を慕っている。しかし彼女の言う好きは、私が彼女の憧れであることが前提の「好き」なのだ。私がいくら否定しようとも彼女が意見を曲げることはない。端的に言って、それが重かった。

 成績がいいのは、親に期待されているからだ。親に期待されているから、期待に応えなければいけないから、努力しているだけ。運動ができるのは、息抜きになる趣味だからだ。それも今では彼女の期待がついてまわる。

 私は私だ。アンタの都合のいい存在なんかじゃない。アンタが思っているほどできた人間でもなんでもないんだ。一度なにもかもが嫌になって、全ての期待を裏切ってみたことがある。なんにもできない、憧れとは程遠い子。

「柚子ちゃんはそんな子じゃないでしょ? ちょっと調子が悪いだけだもんね」

 彩の反応はそんなもので、つまりは「憧れの林道柚子」を見ているだけで「私」のことは一度たりとも見ていなかったのだ、彼女は。

 きらきらとした、こちらを見る目が嫌いだった。盲目的なまでのその憧れが嫌いだった。どこまでもついてまわるその足が嫌いだった。そのくせ貪欲なまでにこちらに伸ばされる手が嫌いだった。

 

 静かになった彼女はとても美しかった。そう、思い返せば容姿だけは端麗だったのだ。緩やかにウェーブのかかった柔らかな栗色の髪、きめ細やかな白い肌に小さな口。

 初めて彼女を好くことができそうだと手を取る。冷たいものが伝い落ちる。

 彼女の胸は、赤く染まっていた。