海の中に沈む

海塚の企画・メモ・キャラ用ブログ

怖い話

を書きたかった

 

 ある先輩が言い出した。とあるところから聞いた降霊術があると。そしてそれをやってみないか、と。普通の環境ならば一笑されて終わるであろうその言葉はここ、オカルト研究部ではしっかりと拾われた。すぐに潰れると思われたこの部活だが世の中物好きは多く、数年前から存在するのだそうだ。

「降霊術?」

 まず反応したのは意外にも、そういったものに興味のない友人だった。数合わせに付き合ってくれた彼は、基本的に今までの降霊術やら怪しい類に反応しなかった。付き合ってはくれたけど。

 曰く、設立されてからの記録を纏めているときに発見したものだそうだ。

「でもそれってつまり、過去にもう試されてるんだよな?」

「そーそー、また失敗じゃねえの?」

 部員たちが口々に言葉を投げる。今のところハズレしか引いたことがないのだから、過去に試した方法をわざわざ試すなんて真っ平だった。

 しかし、

「──この時期だけ不自然に記録が存在しないとしても?」

「……」

 一斉に押し黙った。紛失や偶然の可能性だって大いにある。が、そんな可能性ごときで実行しない奴はそもそもオカルト研究部なんて怪しい部活に入ったりしないのである。好奇心の塊とでも言うべきここで異を唱える者はいなかった。

 先輩が束ねた紙を机に放る。B5サイズの印刷用紙。ちらりと覗けば几帳面な文字で手順が記されているのが見て取れた。やる気満々じゃないかと誰かが笑う。そりゃあそう、ここにはそういう奴らしかいないのだ。お前もだろと返して必要物を探し始める。思い立ったら即行動の精神は大切だ。

「これあったっけ」

「あったあった。多めに買ったから足りるはず」

「こっちはもうないよな」

「あー、それは買ってこないと駄目」

「えええ行きたくない」

 準備に取り掛かったはいいものの、誰も外には出たくないらしい。七月下旬の、夏休みを目前にした暑さの外に出たがる奴はあまりいない。

 けれど出なければ始まらない。仕方なく手を挙げた。

「誰か金持ってねえ? アイス奢ってくれんなら行ってやるよ」

「あっ俺もアイス」

「自転車乗ってく?」

「メモにしたからこれもよろしくー」

 途端押し付けられた雑用に、言うんじゃなかったとちょっとばかり後悔をしても後の祭り。ついでに友人を連れて買い出しへ行くことになった。道連れだ。

 文句を言いながらも着いてきてくれるあたりいい奴だ。借りた自転車に乗って炎天下へ漕ぎ出していく。じっとり纒わり付くような暑さが気持ち悪い。照りつける陽射しが肌を焼いてちりちり痛む。お人好し、と声が聞こえた。お前もだろ。人のこと言えるか。

 買いもの中、ふと気になったことを尋ねてみた。

「珍しく一番に反応したよな、なんで?」

「……たまには、悪くないと思って」

「ふうん」

 そんなものか。妙な間がまた気になったけれど、そこまで追求するのはなんだかな。しばらく店で涼んでアイスを食べて、暑い暑いと吐きながら自転車を漕ぐ。やっと準備ができたのは十八時を過ぎた夕暮れだった。

 呆れ、恐怖、好奇、それからほんの少しの期待を孕みながら時間は流れていく。夕陽の差し込む部屋で、丁寧に手順を踏む。のに、

「あ、」

 声を出したのは誰だったか。友人が、中央のコップを倒したらしかった。下に敷いていた紙も被害に遭ったようで、ペンで描かれた図形がじわじわと滲み始めていた。

 視線が一点に集中する。ワンテンポ遅れて全員が一斉に動き出した。

「やっべ!」

「拭け拭け!」

「あー、びしゃびしゃじゃん」

 飛び交う声にすいません、と隣のそいつは困ったように笑った。

 ひと段落ついた頃に思い出す。気になり始めると止まれずに声を上げた。

「これ途中で止めてよかったっけ」

 片付けを終えて解散の空気が漂い始めたころだった。

「記録には特に何もなかったけど……」

 先輩がそう告げる。言われてみれば、几帳面なこの人なら隅から隅まで記録に目を通すだろうし、記載があれば手順を写した紙にも書いているはずだ。記されていないのなら、本当に記載がなかったのだろう。